470級セール開発秘話-2ボートテスト編

投稿者: | 2016/08/14

ノースセール・ジャパンはさらなるセールパフォーマンス向上を目指し、ディンギー用の2ボートテストシステムの開発を続けています。

複数のボートを用いて、海上で比較する2ボートテストはレース艇のチューニング方法としては、非常によく使われる方法です。ノースセール・ジャパンでは、これに独自開発したシステムを用いることで、客観的な視点から、性能を評価することを可能にしました。 システムの基本部分は、ニッポンチャレンジ、アメリカズカップで開発されたものを使っており、そこから、小さなレース艇という制約のなかで、ディンギーに特化した形で進化してきました。 現在は、携帯電話、防水カメラ等、比較的手に入りやすい安価なハードウェアを使いながら、ソフトウェアに工夫を凝らすことで、海上でのリアルタイムのフィードバック、セーリング後の詳細な解析が可能な仕様になっています。 風の情報は、伴走するコーチボートで計測され、各レース艇からの情報とともに、コーチの手元ですべての情報が集約されるシステムになっており、セールの開発のみならず、レース艇のチューニングなどにも力を発揮しています。

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システムは3つのコンポーネントで構成されています。テストボート2艇に、それぞれ1つの”オンボードパッケージ”と、コーチボートに載せられる”チェースボートパッケージ”です。 ”オンボードパッケージ”は、軽量でコンパクト、しかも防水であることが必要です。GPS機能付きスマートフォンとマストトップカメラがテストボートの”オンボードパッケージ”になります。マストトップカメラは1秒間に1回、自動で写真をとり、テスト後にセールシェープ解析に使用されます。同時にスマートフォンはテスト後の解析のためにテスト中のデータをログしています。スマートフォンとマストトップカメラは両方とも6-8時間バッテリー駆動でき、Wi-Fi機能により無線LANの信号で、データを送信できます。チェースボートはリアルタイムでこれらのデータを受信することができます。

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”チェースボートシステム”はこの2ボートテストシステムの中核をなすもので、PC、マストヘッドユニット(風向風速計)、ヘディングセンサー(コンパス)、GPSを備えています。収集された風のデータはパフォーマンスの解析の指標に使われます。2艇のテストボートからリアルタイムで送られてくるGPSのロギングデータ、およびチェースボートのPCで解析されたデータからは航跡、ゲイン/ロス、風のシフトなどの情報を、チェースボートのオンボードPC上でリアルタイムで見ることができます。

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このシステムの最大の利点というのはリアルタイムでパフォーマンスを比較できることです。これにより、海上でのテストをより効果的に行えるようになったことと正しい判断を下す時間の短縮になったことです。このソフトウェアで使用される全てのソフトウェアはノースセール・ジャパンによって開発されています。

 

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リアルタイムでの解析は、このシステムの特筆すべき一面でもありますが、同時にこれからのデザインに繋がる、FEAやCFDの計算用にもロギングデータが活用されます。マストトップからの写真とそれぞれのボートから送られてくるデータは時系列で同期され、テスト後の解析にも使われるようにひとつのデータベースにまとめて保存されます。 ここで簡単にセーリング後の解析作業を紹介します。テストボートのセーリングデータ、セール写真データ、チェースボートの採取したデータはひとつのデータセットにまとめられ、ストレートラインを帆走した、安定したテスト条件のデータが解析用に使用されます。解析された結果は、風の情報、両艇の勝敗、セールの写真とともに1枚の解析シートにまとめられます。( この解析シートから、スピードの優劣や、風のシフトが両艇に影響を与えたか否かなど、両艇のパフォーマンスを確認する為の多くの判断材料を得る事ができます。

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“アドバンスセールアナライザー”では、マストトップカメラで記録されたセールの写真より、セールに水平に貼られたストライプをデジタイジングし、セールのプロファイル寸法をもとに、3Dシェープモデルデータを生成します。 このように生成された3Dシェープモデルデータは、どの角度からもセールをチェックする事ができ、例えば、セールのプロファイルを後ろから見ることもでき、テスト中に後方から撮った写真と比較検討する事も可能にしています。 これらの解析ツールを使用することにより、パフォーマンス、セールシェープを数値化することにより、様々な局面からの検討を可能にしています。

 

このディンギー2ボートシステムプロジェクトにおける私たちの構想は、セールのデザインから評価にいたる一連をクローズドループとし、短期間でデザインスパイラルを回すということです。このループを多く回すことで、よりよいセールを開発できる機会が多く生まれます。 ボートのパフォーマンスをフィードバックしてくれるセーラーの研ぎ澄まされた感覚というのも、信頼できる大きな要素であるとともに、これらの2ボートテストのような科学的見地からパフォーマンスを解析することも乗り手であるセーラーの可能性をも高める要因になっていると思われます。